not simple

21歳年上の彼と、結婚までの道のり。

ことばシリーズ -ソムリエ-

 

私の選んだ言葉に、先生が心底感動してくれたことがある。

 

 

 

 

 

今から20年ほど前の話。 

 

うちの先生は口腔外科医としてのスキルアップを図るため、大学を卒業後、大学病院に勤務しながら難関資格の取得を目指した。

その大学病院は、先生が元々在籍していた大学より、ランクが上の病院だった。

 

先生はその道のプロとしての志を高く持ち、より高い水準を持つ病院で技術を培っていくつもりだった。

 

 

 

 

けれどもそんな先生に対し、6年間連れ添った同じ大学の友人たちは冷たく当たった。

 

「お前は変わったよ」

 

そんな言葉を最後に、友人たちとの交流は途絶えた。

 

 

 

 

 

結果として先生は、10年に渡る大学病院勤務の後、無事その資格を取得した。

 

 

 

 

「おめでとう。よくやったな」

 

そう言ってくれた友人は、高校からの付き合いがあり、同じ口腔外科医でもある親友ただ一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

先生がこの話を私にしてくれた時、大学時代の友人に対して「所詮そこまでの縁しかなかった奴らなんだ」と言った。

 

けれどもその姿は少し寂しそうに見えた。

 私は、先生の話を静かに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の夕飯時。

どんなことがきっかけだったかは忘れてしまったけど、先生はこう言った。

 

「俺、友達少ないからさ」

 

 

 

 

その様子が先生自身に対してとても否定的に見えたので、私は暗雲を払うように言い返した。

 

「友達が多い奴なんて、信用できない」

 

 

 

 

 

 

 

元々そんな風に思っていたかと言えば嘘になる。

けれども私は先生に、一人ぼっちになってでも頑張ってきた時代を否定的に見て欲しくなかった。

 

結果として友達が離れて行ってしまったことは、確かに寂しいことだったかもしれない。

だけど、彼が仕事に傾けたその情熱を、私は肯定したい。

 

 

 

 

あなたの情熱を認めてくれた友人が一人でもいるのなら、それで十分じゃないか。

恥じることなんて何もない。

弱い奴らは狎れ合うことで、自分の武器を磨くことから逃げてるだけさ。

自分をしっかり持っていれば、友達がいないことなんて恥ずかしいことじゃないぜ。

 

 

 

こどものおおかみが、百戦錬磨の雄狼に向かって吠える。

 

 

 先生は「そっか」と言って笑い、夕飯をもくもくと食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

後に先生は私の言葉をそっくりそのまま親友に伝え、「うちのやつがこう言ってくれたんだ」と自慢げに話した。

 

私に対しても、あの時は嬉しかったと何度も言った。

こんな風に自分を理解し、肯定してもらえたことはなかったと。 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで書いておいてなんだけど、私は別に、友人が多い人のことを否定しているわけではない。

 

狎れ合って、自分を持っていない人が苦手なだけ。

空洞の構造を持つ人型を、外側からポカンと叩いてる気分になるんだ。

 

 

そんなものに信頼を寄せるなんて、疑り深い私はきっとできない。

 

 

そんな話。