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先生に祖父の病状を話したのは就寝前、ベッドの中だった。
先生は、話している最中にめそめそと泣きだした私を腕枕で抱え、頭をなでて慰めながら話を聞いてくれた。
先生は、私の話す祖父とのエピソードを聞くのが好きだった。
幼いころの私が目に浮かぶようで、いつもにこにこしながら話を聞いてくれていた。
祖父の存在は、私の幸せな過去の象徴のようなものだったのかもしれない。
ひとしきり私が涙を流した後、先生はぽつりと言った。
「あーちゃんは、じいが大好きなんだね」
先生の顔に手を伸ばすと、濡れていた。
優しい人だと思った。
二人で話し合った結果、祖父が元気なうちに正式な挨拶に行くことを決めた。
祖父は年の離れた私たちの結婚をとても喜んでくれていた。
エンゲージリングを見せると、「まさか大きい石だなあ」と言って笑ってくれた。
私が幸せになること。
安心して暮らしていけることを証明すること。
この世に残す心配ごとを、一つでも減らすこと。
それが、祖父に対する孝行になると思う。
私にとっては恐らく、祖父の死が初めての「肉親の喪失」になるだろう。
近しい愛する人を失う痛みを、私はまだ知らない。
しかし、そのリミットは確実に近付いている。
まだまだ考えること、感じることがたくさんありそうだ。
今はただ、家族との時間を大切にしたいと思う。