not simple

21歳年上の彼と、結婚までの道のり。

口福

 
自分の居場所だと思えないから綺麗にできない
 
 
 
使った後のキッチンを深夜に掃除しながら、そんな友達の言葉を思い出した。
 
 
 
今私が使っている新居のキッチンは、先生が料理好きの私のわがままをたくさん詰め込んで作ってくれた。
 
赤くて、広くて、かわいくて、使いやすいキッチン。
 
 
 
私の居場所だと思える。
 
だからどんなに夜遅くなっても、綺麗にしたい。
 
 
以前住んでいたアパートやマンションのキッチンも嫌いではなかったけど、ここまで綺麗にしようとは思えなかった。
 
やはりここは、私にとって特別な場所なのだろう。
 
 
 
 
 
私が料理に凝り始めたのは、先生を喜ばせたいという思いがきっかけだった。
料理上手な女性だと思われたいなんて見栄もあったかもしれない。
 
 
 
もちろん、料理自体はもともと好きだった。
 
 
少しでも美味しいものを、見栄えの良いものを、食卓に喜びをと追求するうちに、料理の奥深さと繊細さに益々惹かれていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
私は、創作のセンスが無い側の人間だと思っている。
 
絵も文も、音楽も、料理も。
 
 
 
それでもこの料理という奴は、食材を見て、タイミングや加減を測って作業をしていけば、相応のリターンを得ることができる。
 
料理は芸術的な意味での繊細さを持った化学だといつも思う。
 
 
 
 
 
 
 
さらに素晴らしいのは、創作した物で人を喜ばせることができること。
 
 
好きな人を安心させ、笑顔にすることができること。
 
 
 
月夕堂のシェフのようにたくさんの人に幸せを配る才能は無くても、先生が「美味しい」と言ってくれるならそれだけでいい。
 
そういう物を創作していきたい。
 
 
 
 
 
 
 
今日はバレンタインだった。
 
先生は私の作ったバーニャカウダソースを残さず掬い取り、我が家ではお馴染みとなったボンゴレビアンコを絶賛しながら食べてくれた。
 
 
 
「あーちゃんは本当に料理が上手いね」
 
 
 
そんな風にも言ってくれて嬉しかった。
 
 
 
 
凡才も極めればまた才能だろうか。
 
 
こらからも、キッチンに立つことを楽しみながら創作していきたい。